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1968年にドイツのケルンで結成されたバンド、カン(CAN)。

欧米とはまったく異なる文脈でロック・ミュージックを進化させた彼らは、

当時の西ドイツで生まれた前衛的な

音楽ジャンル=クラウトロックの象徴とも言われている。

カンの創設者にあたるイルミン・シュミットと

ホルガー・シューカイは、二人ともドイツ現代音楽の巨匠シュトックハウゼンのもとで教えを受けている。

同じく創設メンバーのヤキ・リーベツァイトは、

元々フリー・ジャズのドラマー。

そして2代目ヴォーカリストのダモ鈴木は、放浪中に声をかけられてバンドに加入した日本人。

こうした経歴からも明らかなように、

カンは欧米で生まれたロックの歴史を外側から書き換えたバンドなのだ。

今回ここで紹介するのは、そんなカンが1972年に発表したアルバム『エーゲ・バミヤージ』。

全盛期とされるダモ鈴木在籍時の2作目にして、その後の音楽シーンに多大な影響をもたらした、

まさに歴史的名盤だ。

タイトルの『エーゲ・バミヤージ』は、

トルコ語で“エーゲ海のオクラ”という意味。

アルバムのカヴァー・アートには、オクラの缶詰がデザインされている。

このデザインは、ヤキが実際にトルコ料理店で見つけた缶詰がモチーフ。

そこでトルコ語の“can”が英語の“Life”にあたる言葉だと

知ったことから、彼らは『エーゲ・バミヤージ』のイメージを着想したのだという。

全7曲で収録時間40分8秒の本作には、食事や健康に因んだ曲名がいくつか並んでいる。

そんな『エーゲ・バミヤージ』の5曲目に配置されているのが、10分を超える長尺曲「スープ」だ。

実はこの「スープ」、制作の最終段階でアルバムが短すぎるということになり、

レコーディング最終日に急遽こしらえた楽曲なのだという。

つまり、「スープ」は最後に付け足された

オマケということ?

いや、決してそうではない。

むしろ「スープ」は当時のカンが蓄えていた斬新なアイデアをインプロヴィゼーションで一気に詰め込んだ、非常に濃厚な楽曲なのだ。

中東音楽の旋律やアフリカ音楽のリズムを粗野な電子ノイズと絡めつつ、

テープ編集などは一切施されていない「スープ」は、

オーガニックなサウンドを志向した『エーゲ・バミヤージ』を体現していると言っても過言ではない。

オクラをベースにしたごった煮スープ…といえば、

以前に取り上げたガンボ・スープを思い出す人もいるかもしれない。

しかし、恐らくカンがここでイメージしていたのは

別のスープだと私は思う。

『エーゲ・バミヤージ』はアメリカの伝統から切り離されたことで生まれた、

まさに突然変異のロック・ミュージックだ。

時代を50年は先駆けていた、とも言われているカンの音楽。

その味わいには宇宙のような広がりがある。

(文・渡辺裕也)

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