細川亜衣さんによる【旅と世界とスープ】の第4回目は、
スリランカの旅の思い出とそれにまつわる料理について、綴っていただきました。
trip.4
★旅の記憶
もう何年も前のこと。世界中を旅をしながら写真を撮っている友人に、
次なる旅の目的地として選ぶのならばどこがいいかと尋ねてみた。
そして、強く勧められたのがスリランカだった。
「野菜好きの亜衣ちゃんはきっとスリランカの料理が好きだと思う。とにかく野菜をとても上手に使うんだ。そして、とても美しいアーティスト・イン・レジデンスがあるの。申請を出せば誰でも泊まれるはずだから、そこに滞在できるといいね」。
インド料理とスリランカ料理の明確な違いすら把握していなかった私が、彼女の一言で急にスリランカという国に惹かれて、頭から離れない。さらに、彼女の話していた、芸術家のための建物を調べてみると、私が長いこと憧れていた建築家の終の住処だということがわかった。
行くしかない、そう心に決めて宿を手配し、娘や友人たちと連れ立って彼の地を踏んだ。
一路、コロンボへ。空港でスリランカ人の運転手が待っていてくれる。
まずは空港近くの食堂で腹ごしらえをし、私たちのバスの旅が始まった。
各地を回りながら、見たことも、食べたこともないスリランカの土地の味にどっぷりと浸かる日々を重ねてゆく。私たちが見たもの、食べたものは断片的で、一国の料理を語るにはあまりにも拙い印象でしかないが、とにかくさまざまな野菜が想像もしていなかった形で生かされていることに心底驚いた。ココナッツオイル、そして独特のハーブやスパイスとの組み合わせで、見慣れた野菜に魔法がかかるのだ。
その最たるものが、私の憧れの地で出会ったトマトとコリアンダーの一品だった。私たちからすればスリランカのたいていの料理は”カレー”という言葉でひとくくりになってしまうので(それが正しいかどうかは別として)、”トマトのカレー”と呼ぶこととしよう。
建築家の屋敷はどこが始まりでどこが終わりなのかわからないほど広大な土地の中にあった。その中心に外の食堂があり、プルメリアの大木に乳白色の花が無数に咲く景色を眺めながら、私たちは朝晩の食事をとる。まさに夢のような時間だった。
数日の滞在の中で、料理人がこしらえてくれさまざまな料理を食べたが、月日が流れたいまも記憶にくっきりと刻まれているのは”トマトのカレー”ただ一つだ。トマトを切り、ココナッツオイルで炒め、コリアンダーシードと少しのにんにくで香りづけをしただけのごく簡単な作り方だったように思う。だが、なんとも鮮やかな味わいで、
私は一瞬で心を奪われた。
日本に帰ってからもう何年もが過ぎたが、トマトが旬を迎え、我が家の畑でコリアンダーが実をつける頃に、私は毎年この料理を作り続けている。
今年ももちろん作るが、もう一つ、私の幼い頃からのトマト愛とスリランカの記憶を結び合わせた料理を先日ふと思いついて作ってみた。物心ついた時から、とにかくトマトが好きだった。
それは今も変わっておらず、市場でおいしそうなトマトを見つけると使い道も考えずに買い込んでしまう。中でも好きなのがトマトの種だ。ぷるん、とした独特の食感の酸っぱい汁は一番のごちそうだ。
その種のおいしさを味わいつつ、スリランカの旅を想う。初夏の一皿ができあがった。
★記憶のレシピ
「トマトとコリアンダーのスープ」
〈材料〉※約4人分
・トマト 2個
・塩 適量
・コリアンダーの葉、花、種 適量
・粗塩
〈作り方〉
①トマトは湯むきし、半割りにして種をくり抜く。種は冷やしておく。
②トマトの果肉に塩少々をふり、ざるにオーブンシートをしいた上に並べる。
③太陽の下で、トマトの表面が乾くまで干してから冷やす。
④冷やしたうつわにトマトの種を盛り、果肉を切り口を下にして盛る。
コリアンダーの葉、花、種を散らし、粗塩をふる。
*左から手順
(文とレシピ・細川亜衣)
次回の「旅と世界とスープ」は、いよいよ最終回。
2024年10月を予定しています!お楽しみに。
soupn.スタッフ umicoもスリランカの旅について綴ったコラムがありますので、
こちらも併せて読んでみてください♪
★Editor's Column スリランカ旅
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