SDS_banner1_0120up.jpg

2018年9月、26歳という若さでこの世を去ったマック・ミラー。

彼は優れたラッパーであるのと同時に、聡明な思想家でもあった。

ユダヤ人として生まれ、カトリック系の学校に通っていたマック。

幼い頃からキリスト教の教えを身近に感じながら、その綻びにも気づいていた彼は、

おのずとさまざまな宗教に関心を抱くようになり、それは彼の創作にも影響を及ぼしていく。

そんなマックが自分の宗教観を全景化させたのが、

2013年リリースのセカンド・アルバム『Watching Movies With The Sound Off』だった。

アルバム・タイトルは「無音で映画を再生しながら音楽を制作する」という彼の習慣をそのまま表したもので、

その中身は非常に内省的だ。

とりわけ興味深いのが、フライング・ロータスと共同制作したサイケデリック・チューン"S.D.S." (Somebody Do Something) 。

マックはここで宗教がビジネスとして利用されることへの違和感を示し、

ひとつの教えを絶対的な真理とすることへの躊躇を語っている。

同時に<ユダヤ人の仏教徒がキリスト教の教えを消費してる>という一節には、

自分がキリスト教徒でありながら他の宗教に惹かれていることへの背徳も感じ取れなくはない。

“S.D.S.”にはこんな一節もある。

<Wonder if Hindus like to eat fish soup

-ヒンドゥー教徒はフィッシュ・スープを気に入るだろうか?->

このリリックに対して大真面目に答えると、

もちろんノー。

大方のヒンドゥー教徒は魚も含むすべての動物性食品を禁忌としているので、実際は魚介の出汁すら口にしないだろう。

一方のキリスト教徒にとって、魚(=イクトゥス)は重要なシンボルだ。

このようにマックは曲中で複数の宗教と向き合いながら、お互いが対立せずに融和する術はないものかと思案していくのだ。

生涯を通じて生きることの意味を何度も問い続けては、それを何物にも変えがたい音楽へと昇華していったマック・ミラー。

彼が生前に残した作品の数々は、これからも聴く者たちをインスパイアしていくだろう。

かつてマックと交際していたアリアナ・グランデは、自身の楽曲“thank u, next”でマックについてこう述べている。

<マルコムにありがとうと伝えられたらいいのに/

だって、彼は天使だったんだから>

(文・渡辺裕也)

humming_banner_01.jpg